全国肥料商連合会(全肥商連)
平成29年 10大ニュース
1.農政改革進む
今年8月1日に農業競争力強化支援法が施行された。昨年より主に自民党内で議論されてきた農政改革の一里塚である。その狙いは生産性向上と担い手の所得補償にあるが、マスコミ紙上で賑わしたのが、生産コスト削減に対して大胆に踏み込んだ点である。肥料・農薬・農機等の生産資材と農産物の流通コスト削減に行政が支援策とともに指導力発揮を明確にしたことである。その中でも注目を浴びたのが肥料末端流通で9割のシェアを維持している系統流通改革である。全農は肥料汎用製品に関して銘柄削減と入札制度を導入した価格低減策を行政にアピールしている。来年度に続くのが(1)生産構造の強化(農地集積、減反政策の廃止等)、(2)市場(輸出)の拡大、(3)生産と消費を結びつけるバリューチェーンの形成(卸売市場改革等)、(4)全農・農協改革(全農株式会社化、農協の金融・共済・経済活動の分離)の4つであろう。目を話すことはできない。
2.市場開放圧力強まる
農政を取り巻く環境が激変したこの1年だった。今年1月に誕生した米国トランプ政権は環太平洋経済連携協定(TPP)からの撤退を決めたことから、TPP11ヶ国による交渉が加速し11月に大筋合意となった。EU(欧州連合)との日欧EPA(経済連携協定)は7月に大枠合意に達した。この二つの協定とも最終合意・批准を必要とするが、最終決着は来年に持ち越される可能性が高い。一方、トランプ政権は日米2国間FTAの早期締結を望んでいる。日豪EPAで牛肉の関税率が19.5%まで下がるが、トランプ政権のTPP離脱で米国産牛肉の関税率は従来の38.5%のまま。米国農畜産業界が取り分け圧力をかけている。(注:日欧EPAは12月8日に合意に達し、協定の署名は2018年夏、2019年春までの批准を目指す)
3.フードチェーン農業の提唱
全肥商連はこの1年間宮城大学名誉教授大泉一貫先生の指導の下、フードチェーン農業に関する研修会を催し、その骨格となるマーケットイン、イノベーション、連携について学習をしてきた。その背景は、販売農家戸数が2030年には40万戸、米販売農家は10万戸まで激減し、農業GDPに占める5千万円以上の販売をする農業経営者のシェアが75%になり、専門的な農業技術を駆使して差別的な農産物栽培をする篤農家が24%を占めることになると予測される。そのような状況下では、外食、中食等の実需者と生産者との連携がプラットフォームとなるが、付加価値向上にはHACCPを導入した食品加工業との連携、安全・安心を担保するには、農業現場へのGAP農場化が絶対条件となる。取り分け、農業を総合産業とおき、異業種連携によるイノベーションに取り組めるかが成功への鍵となる。この実践的挑戦が生き残りのためには必須である。(注:厚生労働省は11月15日に食品衛生法改正の懇談会最終取り纏めを発表したが、フードチェーン全体を通じた衛生管理の向上を唱えている)
4.衆院選は自民党の圧勝
安倍政権は2011年夏の参院選挙以降、農政改革を断行してきた。時系列的に追ってみると、コメの減反廃止を産業競争力会議が提唱したのが13年5月。同年11月にコメの直接支払交付金や政府による生産数量目標の配分の5年後の廃止が決まった。規制改革会議が、農協中央制度の廃止や全農の株式会社化を唱えたのは14年5月。国会で農協法が改正されたのは15年8月で、全中の一般社団法人化、地域農協への会計士監査の導入などを盛り込んだ。16年6月には企業の農地所有を解禁する改正国家戦略特区法が成立。前述通り、17年8月に農業競争力強化支援法が成立し、全農・農協改革に対する政府のフォローアップが明記された。現在議論されているのが卸売市場法の抜本改正だ。制定時の昭和46年(1971年)以来、骨格は変わっていないが、食品流通の実態は大きく変わり規制が現実離れしているのが実態。今回の総選挙で自民党は圧勝した。農政改革は明らかに次のステージに移る。前述のフードチェーン農業の実現が近づくのか注目したい。
5.第53回全国研修会(熊本)〜将来にむけた息吹〜
熊本地震から1年、まだまだ震災の傷跡が残る熊本市で第53回全国研修会が7月6日、7日の両日全国から180名の参加を得て盛大に行われた。農業復興は全ての始まりであり、更なる成長をめざして需要創造に挑戦する意味合いを持つ『NEXTアグリ“0”年』のタイトルの下、大泉宮城大学名誉教授の『フードチェーン農業in九州』の記念講演に続いて行われたパネルディスカッションでは、被害甚大であった阿蘇、上益城郡農家の元気に復活した秘話に耳を傾け、未来に向けた飛躍について食品流通業者も交え語り合った。2日目は大野菜産地である熊本、宮崎、鹿児島農業にとっては朗報である「野菜の硝酸態窒素が人の健康に必須である」との新事実に関し、医学・農学の専門家の講演に聞き入った。またプログラム最後には全肥商連九州のGAPに関する取組宣言(JGAP推進協議会有明・玄海)もあり、全肥商連会員の新たな息吹を強く感じた研修会であった。来年は静岡県掛川市にて7月5日・6日の両日に第54回全国研修会が開催される。
6.施肥技術マイスター〜新たな評価〜
平成23年にスタートした施肥技術講習会は20回を終え受講者は2,341名、施肥技術マイスター登録者は1,702名となった。会員各位の地味であるが健全な農業に向けての地道な活動が評価され、各都道府県部会及び会員会社は農水省のホームページ「土づくり専門家リスト」及び「普及組織と民間企業・団体等との連携先リスト」に掲載された。その数はまだそれぞれ35都道府県26部会と230会員にとどまっているが、営農活動に関する官民連携の礎になることが期待されている。施肥技術講習会は講義内容をシェイプアップした実学コースと誰もが受講可能な新基礎コースの2本建てになっており、日本農業に技術面でより一層貢献できる体制を目指す。
7.特別プログラム定着
平成26年度からスタートした特別プログラムは、都道府県部会活動の活性化に本部として財政支援をするもので、今までに21都道府県部会・3団体が参加した。各都道府県部会は自主的に活性化案を作成しているので、その内容は現場の知恵が活かされており、形態も様々である。その活動も徐々に地方行政の目に留まり、三重県部会の特別プログラム『飼料用米実証圃』事業と栃木県の『土壌診断研修』は平成29年度の農業革新支援センター長会議で“普及組織と全肥商連の連携優秀事例”として紹介された。三重県部会は従前から県との官民連携に貢献しており、今年度の三重県知事感謝状の受賞につながった。平成29年度も継続することは決まっており、全国各地の新たな展開は楽しみである。
8.農林水産省「農業技術の基本指針」改定 〜野菜の硝酸塩対策を削除〜
農林水産省は「農業技術の基本指針」について、有害物質等のリスク管理措置の徹底項目として「野菜の硝酸塩対策」を記載していたが、平成29年度版から当該項目全てを削除した。これは本会施肥技術講習会カリキュラム委員長渡辺和彦先生が、本講習会や講演会に於いて長年「野菜の硝酸塩は有害ではなく、人間の健康に有益であること」を啓蒙してきたことが行政に通じた結果である。今後肥料商として硝酸塩や化学肥料の適切な施肥は、作物にも人の健康にも有害でない事を生産者、消費者に対し認識を改める良い機会となるよう努めるべきである。
9.「生産コスト低減技術確立支援事業」実施 〜平成28年度補正予算採択〜
本会では昨年度、国産リサイクル未利用資源を活用することで生産資材費のコスト低減を図り高品質農産物の輸出を促進するプロジェクトについて農林水産省より事業実施主体として採択を受けたが、昨年12月より全国土の会、東京農業大学、普及指導機関、肥料メーカー等産官学連携で実施した。実証試験は北海道富良野市(メロン)、埼玉県加須市(キュウリ)、埼玉県行田市(水稲)の3か所に於いて実施し、各圃場とも生産資材費の大幅な低減を図ると共に、高品質農産物生産に結び付く結果を得ることが出来海外輸出への期待も高まっている。
10.自然災害による被害と米価値上がり 〜飼料用米政策と主食用米減少〜
今年も7月に福岡・大分両県を中心とする九州北部豪雨や、10月の台風21号による西日本・東日本・東北地方にかけて広い範囲の集中豪雨により、多くの犠牲者や被害が発生し、農業関係においても全国各地で自然災害により大きな影響が出た。平成29年産米の作況指数は全国平均100と平年並みとなったが、登熟期の長雨・日照不足の影響により栃木県の93、三重県の95など地域により不良の産地も少なくなかった。 一方主食用米の作付けは、前年比△11,000ha(△183千t)減少したことと、補助金の高い飼料用米作付けは50万t程度に維持していること、産地の競争力強化の為高級ブランド米の増加などにより特に中食・外食向け業務用米の不足が起き、米価は前年比10~20%値上がりとなっている。平成30年産から国の生産調整が廃止となるが、生産増によるコメの値下がりを避けたいJAグループは国の生産調整を引き継ぐ方針にあり、需要家のニーズに合うコメ作りがされず、コメの高騰・不足が続く懸念が残る。