株式会社 神明
代表取締役社長
藤尾 益雄様
1989年 芦屋大学教育学部卒業、(株)神明入社
1997年 (株)神明東部代表取締役社長
2000年 (株)神明常務取締役営業本部長
2003年 専務取締役
2004年 営業部門管掌を兼務
2005年 (株)神明ロジスティクス社長を兼務
2007年〜代表取締役社長
年商1,400億円を超える米の総合商社(株)神明の代表取締役社長。「米穀卸から『コメの総合商社』へ、目指すは世界の穀物メジャー」をモットーに、米の需要、消費の拡大に取り組む。
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まず本米卸の経営状況について、平成23年産米の価格と産地について触れたいと思います。米穀売上高は売上げ数量が上昇したにもかかわらず、販売価格の下落により前年度を下回り総売上高でも減少となった。しかし20年産米の安値処分がほぼ終了し、仕入れ価格が大幅に低下したこともあり、粗利のほうが改善され売上げ総利益が増加し、経常利益が段階的にも増益となった。一方では非常に苦しい経営の卸もあるという状況になっております。
環境としましては少子高齢化等による消費の減退傾向は継続しており、デフレの環境下のもとで売上げも伸びも期待できないなか、卸同士の販売競争、それに伴う価格競争が激化してきております。そういったことから今後、米穀卸も再編を含めたより一層効率的な経営が求められるような状況となっております。
つまり平成23年産は原料高、製品安の状態が続き、さらに卸の経営環境が一層圧迫され再編の速度が進むと私共は考えております。
当社は‘あかふじ米’というブランドをもって神戸本社を中心に展開しております。本社のほうが神戸市中央区、創業明治35年、創業109年の歴史になっております。設立が昭和25年、設立62年、資本金は5億8,995万円、年商が1,403億円これが今年の3月の状況でございます。
事業目的としまして、米・砂糖・穀物・小麦粉・その他食品の卸売及び加工となっております。取扱い品目ですが、米・砂糖・雑穀・小麦粉・乾麺・無菌包装米飯等となっており、特に米の売上げは総売上の92.5%となっております。その他の食品が7.5%で105億円ということになっております。
事業所、精米工場についてですが、事業所は本社が兵庫県神戸市の他全国6ヵ所。精米工場は自社工場6つ、提携工場1つで運営をしております。
次に第62期の当社の取り組みについてです。62期は以下の5つの項目に重点をおいて取り組んできました。
1つ目は、財務体質のさらなる強化。遊休資産、不動産、投資有価証券、関係会社株式の整理や、有利子負債の圧縮を行ってまいりました。
2つ目は、販売力(営業力)の強化です。昨年度から、実需者である、弁当屋さんなどで精米工場をもっているところがところに販売していくというようなことをやってきました。
3つ目が購買力(仕入力)の強化。従来の仕入れ先に加え、生産者、産地仲介業者等の多様な仕入れルートの改革、新たな分野でもある新規需要米などの取り扱いの拡大に向けて仕入先、産地の改革に注力してきました。
4つ目は海外事業への取組みであります。昨年5月18日に、世界の皆様に日本の美味しいお米を食べていただくことを目的とした「全国米関連食品輸出促進会」を発足し、さらに昨年の8月1日に海外商品開発室をつくり、海外事業への取組みも注力してまいりました。
5つ目はギフト事業への取組みです。一昨年10月にギフト販売会社ベターライフを立ち上げましたが、ベターライフの営業力をより推進するために大きな組織改変をし、互助会や大手葬儀社に米の提案というものを進めました。
当社の企業理念としましては、『私たちはお米を通じて、素晴らしい日本の水田、文化を守り、おいしさと幸せを創造して、人々の明るい食生活に貢献します。』ということを企業理念としています。
基本方針としましては、まず1つ目、よりよいパートナーづくりであります。2つ目はコスト意識を高めることです。3つ目は、社員一人ひとりの成長を促進することです。4つ目は闊達な企業・組織風土の創出であります。特に結果でもこだわる企業風土、またより多くで闊達した企業風土というものを構築していくということを基本方針をもとに戦略を進めて行なっております。
日本経済はかつてないほどの不況、そして追い討ちをかけるように3月11日の「東日本大震災」に見舞われました。円高、株安、また今議論されております増税、デフレ、少子高齢化、それに伴う消費の食傷、そういったなかでどのようにしてわれわれが活躍していくかということを考えていきたいと思います。
まずGDPについてですが、2005年の時点では日本は中国のほぼ倍近いGDPがありました。それが昨年2010年におきましては、日本が中国に逆転されるという現象になりました。中国は2000〜2010年の10年間でおよそ5倍にGDPが膨らんできております。
次に人口でありますが、日本の人口は2005年を境に徐々に減少傾向になってきております。それに対して、中国の人口ですが、2000年は12億6,743万人そして2015年には13億7,529万人と予測されております。
またインドのほうは、2000年には10億4,259万人といわれておりますが、2015年には12億9,924万人と2億5,000万人くらい増加するといわれております。近い将来インドは中国を抜き、世界一の人口超大国になります。
さらに人口総数量だけではなく中身というのが消費に大きく問題になってくると思います。日本では65歳以上が23.1%、15歳未満が13.0%。中国は65歳以上が8.2%、15歳未満が19.9%。インドは65歳以上は4.9%、15歳未満30.8%。日本の高齢化に対して、中国、インドは若者の割合が多い。そういったことから中国、インドのこれからの動向が大きなマーケットにつながってくると思います。
ドル・円の相場では、3月17日に海外市場で過去最高値の76円25銭をつけました。それからずっと円高が続いております。
株価は東日本大震災のあと3月15日に8,605円15銭をつけ、今年最安値となりましたが、9月6日の株式市場で欧州債権問題等の警戒感を背景に売りが広がり、193円89銭安の8,590円57銭と今年最安値を更新しました。
また、日本は法人税がもっとも高い国であり、韓国と日本とでは15%の法人税の差というものがあります。
こういったことが、日本国内企業の空洞化を進めていっている要因です。国内の景気は、リーマンショックや東日本大震災の影響で、自律的な回復に至らず低迷が続いており、急速な円高やTPP、税制の問題に加え、国内人口の減少、市場規模の縮小など企業を取り巻く環境というのはますます厳しさを増してきております。
そして、日本の米の市場については、この業界の生き残りをかけていろんな再編がこれから行なわれていくと思います。ピーク時には4兆円あったマーケットが今ほぼ半分になってきている。これだけ減少したなかで、米穀卸業者数は依然として350〜400業者あり、当然ですが過当競争というのが行なわれています。
平成22年の米の生産量はピーク時の昭和42年のから見ると半分近いような数字にまで減少してきており、需要のほうも昭和35年から年々減少してきています。
米の相対価格は、世界の穀物は価格が上昇しているにもかかわらず、日本の米とは年々下落していっています。
米の1人当たりの年間消費量は、食生活の変化に伴いまして今現状は60kgを下回り、ピーク時の半分になっています。
消費者は米の購入についてどこに重視するかということですが、価格78.3%、品種53.7%、食味50.6%、産地44.0%ですが、安全性については、地震以降だんだん上ってきていますので、将来的には1つの基準になるのではないかと私どもは見ております。
平成23年産米についてですが、原発事故の放射能の問題で、放射能調査対象が青森から長野まで計17都道府県となっております。この都道府県の合計生産量が415万トンとなっております。国が指名した検査体制ですが、予備調査と本調査がありまして、予備調査で収穫1週間前に玄米を検査し、200ベクレル以下であれば本調査で出荷後の玄米を検査し、さらに200ベクレル以下であれば出荷可能となっております。また予備調査で収穫1週間前の玄米を検査し、200ベクレル以上を超えた場合、予備調査のほうは通過しても本調査でもう一度玄米を調査し、200ベクレル以上を超えた場合は、収穫後の玄米を15ヘクタールごとに検査し500ベクレル以上の場合に関しては出荷停止となっております。
そういった検査のなかで基準値以下であっても、消費者のほうは本当に大丈夫なのか、子供には影響はないのか、検査体制はきちんとできているのかなど、今後そういった風評被害が懸念材料の一つになってくると思います。
また、地震・津波被害により、農業施設や用水路の被害がかなり大きく出ていますので、生産目標どおりの数字が本当に生産できるかということなどがございます。
そういった日本の環境のなか、世界の穀物市場は全く違うかたちで推移しています。世界穀物等の国際価格の動向について簡単にグラフにまとめてあります。穀物等の国際価格は、2010年7月以降再び上昇し、2006年秋に比べ1.9〜3.3倍で推移しております。米は、現在2005〜2006年当たりの価格から見ますと倍で推移しております。
2011年の価格を見ると、大豆は2006年の2.6倍、小麦は1.9倍、トウモロコシも3.3倍ということで推移しています。
穀物の影響はすごく大きいと思います。皆さんご存知のように食糧全体が40億トンあるといわれております。そのうち4大穀物といわれる米、大豆、小麦、トウモロコシで20億トン以上で世界全食糧の半分以上を占めておりますので、この相場というのが食料品の値段に大きな影響をもっているというのが今の現状です。
穀物などの価格高騰の要因としましては、発展途上国の人口増加。新興国を中心とする食生活の変化。バイオ燃料などの需要の高まり。地球温暖化が穀物に与える影響などが上げられます。
そういった環境のなかで、日本も食料問題に直面しています。日本の自給率は先進国では最低で、1960年に80%あった自給率は半分の40%となっております。日本は農業生産高が8兆円で世界で第5位であるから、世界で日本は第5位の農業大国であるという人もいますが、私の感覚では日本は米は800万トン強、他の農作物全部合わせて1,000万トン位しかつくられていない。日本の国土・人口が半分のイギリスでは穀物生産量3,000万トンですから、日本はその3分1しかつくられていませんので、やはりこれは非常に問題と考えるべきだと思います。
日本が農業生産高8兆円あるというのは、日本はGDPで中国にこそ抜かれましたが、世界第3位で480兆円という規模です。あと1億2,000万の人口があります。当然食品も新興国が高いので、当然農業生産高も高くなっているというふうに思っております。
発展途上国の人口増加や食生活の変化、バイオ燃料の需要増大、地球温暖化による影響で世界的食料危機が叫ばれております。その中で日本は食料自給率がカロリーベースで40%しかなく、年間3,000万トンもの穀物関係を輸入しているような状況のなか、日本の農業のあり方というものを見直していかなければならないという状況に立っております。農地、農業用水、担い手等の問題はあるものの、生産者と卸が一体となって、「日本の農業の活性化」「夢のある農業」に向けて、、当社は海外への輸出、米の需要拡大に取り組んでいっております。
それで、このような日本国内、世界で穀物に関する問題が発生している中で日本の農業の活性化、夢のある農業に向けて私たちにできることということで、米の消費を拡大するには、
(1)安全性への取組み
(2)国内消費量の拡大
(3)コメの用途の拡大
(4)自給率向上への取組み
が挙げられます。
まず安全性への取組みにおいては、当社ではIT推進室を10年以上前から設置して、入荷から出荷工程まで、米の流れをコンピューター管理しています。データで全て管理しているのでクレーム等があった場合もシステムを使用することで、すぐにトレースバックができるような状態になっております。
2つ目に国内消費量の拡大についてですが、当社は米を中心とする事業の拡大ということで株式会社ウーケで行っている、無菌包装米飯で米の消費拡大に取り組んでおります。
国内の消費量の拡大については、株式会社ベターライフを設立しました。冠婚葬祭とくに葬儀関係を中心とするギフト商品を販売しております。
また国も挙げてやっていることですが、米粉を使った消費拡大ということも当然これから広がっていくと思います。米の用途については日本酒、せんべい、あられ、味噌、米酢、調味料などが中心でしたが、それに加え今後は米粉パン、ケーキ、クッキー、米粉うどん、米粉ラーメン、また石けんや化粧品など徐々に増えていくように思います。
当社でも米粉を使った商品「おこめのパスタ」を開発しました。。発芽玄米・白米ともに新規需要米を原料として使用しておりますので、米の消費拡大・需給率向上にもつながってきております。
また自給率向上についての取組みとして、当社のほうで「全国米関連食品輸出促進会」というのを発足しました。目的は、日本のおいしいお米を少しでも多くの人に食べてもらい、もっともっとこの世界に和食の文化を広めていきたいというシンプルな目的で、平成22年5月28日設立しました。活動内容は、EU、アメリカ、オーストラリア、台湾、香港、シンガポール等の市場調査をし、そういったところに日本のお米を輸出していくということを主な活動としてやっております。
日本は米の輸出というのが積極的にできていませんでした。そこで当社でも輸出を行っていますが、当面1万トンという目標に向って頑張って取り組んでいきたいと思っております。
私たちにできることは、日本の経済、デフレ、円高、株安、増税、また天災による非常に厳しい局面に立たされておりますが、一方、日本の食品は世界で非常に高い評価を受けております。またこの中にはたくさんの可能性を秘めていると思っております。このことから今後の日本の経済の再生のため農業というものが非常に大事になってきます。
日本農業の活性化に向けて私たちがすべき課題というのは、国民は世界及び日本の食糧問題に関する認識度を高め、米中心とした日本型食生活により、国産作物の消費をやはり増やすこと。また、農家の皆様におきましては、限りある農地を有効活用し安全性、新鮮さ、おいしさの点から国産農作物を求める消費者の要望に応えていく。また、私ども卸業者は消費者の信頼確保のため、適正な表示を行ない、より品質の良い製品を製造すること。また大規模農家の衰退防止のため適正な価格を維持していくこと。こういったことが私どもの重要な役割だと思っております。
また、小売業におきましては農家、卸と一体となって国産農作物の販売拡大に取り組むということが大事だと思います。
私は世間一般では「製販一体」とよくいわれますが、製造ではなく生産者と販売者であるわれわれ、また小売業が一体となって食料問題の課題を解決していき日本の農業の活性化、夢のある農業をつくっていきたいと思います。