一般社団法人
全国肥料商連合会
会長 山森 章二
暑中御見舞い申し上げます。
初めに、各地の自然災害等により被災された方々には心よりお見舞い申し上げます。
日頃、会員の皆様と共に活動させて頂き、また関係者の皆様にはご支援、ご指導を賜り、改めて深謝申し上げます。
例年7月に全肥商連の全国研修会を実施しておりますが、今年は都合により1回お休みとさせて頂いております。来年は実施する予定ですので、どうぞ奮ってご参加ください。
さて、例によって以下は私の独り言です。今年5月の通常国会で「食料・農業・農村基本法」が改正されたことは皆さんご存知のとおりです。この「基本法」改正についても意見が分かれるようですが、ここでは触れません。気になるのは、同時に制定された「食料供給困難事態対策法」です。農水省は、「『肥料』も(この法律による)規制措置の対象となることが想定されている」と説明しています。農水省の説明では、「気象上の原因による災害等に限らず(つまり原因は何であれ)、「国民が最低限度必要とする食料の供給が確保されず、又は確保されないおそれがあると認めるとき」は、食料供給確保の計画作成指示などを経て、最後は「生産計画の変更・生産転換を指示」し、計画届出指示に従わなかった場合は「罰則(罰金)」を科す、となっており、これを「肥料」にも適用する、と言っています。つまり、食料確保が必要となる有事の時、農水省が商社(輸入原料等)、肥料メーカー(化成肥料等)、流通(化成肥料等)にこれらの肥料をこれだけの量調達・生産・供給する計画を立てよ、計画を出さねば罰金を科す、ということです。こういう法律は戦時などの有事の時に国が国民を動かす際に使う典型的な手段であって、それを事が起きる前に準備しておきたいというのは、国の対応としては当然のことでしょう。只、気になるのは農水省の想像力がどこまで及んでいるかです。
肥料関係者も立派な一国民であり、国に何かあったらできる限りのことをしようと思っているのは当たり前で、その時原料があって生産できるのであれば、フル生産しよう、フルに供給しようと思わない人はいないでしょう。問題は、例えば今から10年後に事が起き、その時農水省が「原料のフルでの輸入、化成肥料等のフル生産」を指示する時、その時までに、畜ふん堆肥等への転換の影響もあってか、或いは肥料事業では最低限の利益も上げられなくなり、原料を輸入する商社が減ってしまったので輸入原料の入荷に不安があり、化成肥料メーカーも廃業した処がでて生産能力も心許なくなって、つまり農水省が要請・指示するような生産計画は10年前にはできたかも知れないが、今や絵に書いた餅である、という状況に陥っていれば、罰則を科されようとできないものはできない、ということになる訳ですが、そういう事態に陥る可能性をこの法律を制定した時に想像できていたでしょうか。
肥料などの資材価格を安く保つことや農業生産者のことしか考えていないように見える農水省にはハードルが高いかも知れませんが、今こそ肥料産業の維持・強化・活性化に舵を切ることが必要です。全農が他の利益を肥料に次ぎ込んだとしても肥料価格を安く抑えられれば満足で、輸入原料の極端な値上がりは補助金で埋めて生産者価格を一定範囲に収められればそれで良い、というだけでは肥料産業は活性化しません。市場原理・自由競争による切磋琢磨により他産業と肩を並べる利益を上げることができなければ、このまま産業は衰退の一途から抜け出せないでしょう。全農の株式会社化、或いは、肥料を全農の独禁法適用除外から外す、等で自由競争を確保し、十数年に一度の異常な高騰が勃発する時以外は肥料価格を市場に委ね農水省は口をださない、等の一般の産業界では基本的な原則を尊重しないと、最後は利益はあまり上げなくても良い全農だけが残るということに近い状態になりかねません。
取り返しがつかない程まで衰退する前に肥料産業を活性化する為、何某かの手を打てる、或いは、余計な法や習わし等を外せる、今がラストチャンスと捉えて、農水省の舵取りと政策通で名高い新しい農産局長様の手腕に大いに期待したい処です。
最後に、猛暑が続く中、皆様には呉々もご自愛くださいますようお願い致しまして、暑中お見舞いのご挨拶とさせて頂きます。引続き当会に対するご指導、ご支援の程何卒宜しくお願い申し上げます。
あけましておめでとうございます。旧年中はたいへんお世話になりまして誠に有難うございました。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
初めに、能登半島を始めとして全国各地の大きな自然災害で被災された方々に謹んでお見舞い申し上げます。
次に、昨年も弊連合会が主催する施肥技術マイスター・シニアマイスターになって頂く為の「施肥技術講習会」の開催等に当たり、多くの方々のお世話になりました。改めて厚く御礼申し上げます。今年も施肥技術講習会は2月26/27日(水/木)(岡山)、5月下旬(東京)、11月下旬(熊本)の計3回行います。また、全国研修会を7月3/4日(木/金)に北海道・札幌のホテルライフォート札幌にて行いますので、関係者の方々は奮ってご参加ください。
以下は例によって私の独り言です。
(1)令和の米騒動
米が不足し、価格も上がりました。消費者にとっては厳しいかも知れませんが、今まで苦労してきた生産者は一息つけたのではないでしょうか。米不足に陥った原因については専門家の方々が種々解説されているのでここでは触れません。気になることは、生産者数の漸減傾向が明らかな中、一方で事実上の減反政策を続け、他方で小手先の価格調整を試みるような取り組みをいつまで続けるのか、です。生産者の活性化と食料安保を一挙に狙う策として、米の増産を奨励し、平時は補助金を投入した輸出を伸ばし、有事は国民の食糧確保に回す、という考え方を提案する声が大きくなっています。石破政権は食料安保を前向きに推進するお考えのようなので、大いに期待しています。
(2)「菌体りん酸肥料」とPFAS
農水省は「食料安全保障強化」の一環として、国内肥料資源の活用、特に「畜ふん」堆肥と「下水汚泥」資源の活用を推奨しており、全肥商連もマッチング活動等に協力していますが、大きな課題に直面しています。「畜ふん」堆肥は、かねて肥料成分のコントロールの難しさや海外の農薬由来のクロピラリドが野菜の生育に与える影響などが指摘されてきましたが、ここにきてそれより大きな問題となりつつあるのが「下水汚泥」に含まれる発がん性物質の一つとされるPFAS(分解されない有機フッ素化合物)です。PFASは水などにも広く含有され、一定以下の含有量であればそれが体内に蓄積しても健康に問題は無いと言われています。問題は、従来からある公定規格の「汚泥肥料」にも、新しく作られた「菌体りん酸肥料」にも、重金属の許容含有量の規定はありますが、現状PFASには何ら規定が設けられていないことです。「下水汚泥肥料」の推進に舵をきった農水省には、EUや米国の対応を待つことは許されず、PFASの含有量に付いても信頼できる規定を早急に設ける等の方策を施さないと、「汚泥肥料」「菌体りん酸肥料」の普及は農水省の期待どおりには進まないだけでなく、禍根を残すことになりはしないかと危惧しています。
(3)「食料・農業・農村基本法」の改定と「食料供給困難事態対策法」の制定
「基本法」の改定と共に「食料供給困難事態対策法」が新しく制定されました。食料確保が必要となる有事の際、肥料については、農水省が商社、肥料メーカー、流通に『これこれの肥料をこれだけの量調達・生産・供給する計画を立てよ、計画を出さねば罰金を科す』、という内容になっています。有事の際の国の対応を準備することは当然のことですが、問題は弱体化が続く肥料産業を活性化する手を早く打たないと、いつか有事に直面した時に必要な肥料の供給は覚束ないという事態になりかねません。化成肥料を低減し畜ふん堆肥や下水汚泥肥料への転換を推奨する農水省の政策とこの法律との整合性も見えていません。農水省には、農業生産現場への注力と同様に農業関連の「基幹産業」活性化への助力も期待したいものです。
令和3年からの肥料高騰の波も収まり、今年一年が皆様とご家族様にとって新たなご隆盛の始まりとなりますことを祈念して新年のご挨拶とさせて頂きます。
一般社団法人 全国肥料商連合会
会長 山森 章二