(社)農山漁村文化協会 編集局長
豊島 至様
本題に入る前に、この秋から私ども農文協が刊行を始める『地域の再生(全21巻)』というシリーズと絡めて、当会がどういう事を考えているのかをお話しさせていただきます。
なぜ「地域」なのかというと、中央からの資金で地方が潤う時代は終わりをつげ、今は「地域は地域で自立していく」という覚悟が必要な時代であるということです。
いま「地域」は限界集落の問題だとかで非常に厳しい状況にありますが、なんとか元気と自信を取り戻そうと色々な試みが行われています。その試みの1つが直売所です。農家も色々な工夫をしている。そういうところで都市民と地方民の間に新たなつながりができた。また一方では「食育」「食農教育」などで農家と子どもたちが関わる機会が増えた。その中で農業の良さを農家自身も見直していく。そこを起点にして元気と自信、特に自信を取り戻していると思います。
また、もうひとつ地域が元気を取り戻す方法として、業態革命という言葉を掲げております。業種ごとに別々で動くのではなく、地域という場で、色々な業種を結ぼうじゃないかという動きを強めなくてはいけない。そういった「地域」という業態を作ることによって地域の自立的な経済を作っていくことが必要です。
そういった考え方でいま手作り自治区や集落営農という自治組織が生まれています。自治体が農家や色々なところと組んで、防災や景観作り、役場のような役割まで自分たちで行ない、そこから地域ビジネスを興そうという発想もでてきています。
こういった動きをバネにして「地域の再生」を進めたいということでこのシリーズを出版することになりました。
今『現代農業』で追求しているのは地域の資源を活用して、コストを削減するということです。
地域資源を活用するということは、たとえば畜産農家と野菜農家、あるいは食品企業と連携していくというようなつながりを作り、地域循環によって「地域の再生」を可能にするということです。
この『現代農業』10月号では堆肥栽培の特集をしています。
しかし、実際にやってみると堆肥というのは非常に難しい。まず完熟堆肥がなかなか手に入らない。半生みたいなものを使うと、きちんと発酵せずに腐敗してしまう。このように堆肥を巡る色々な問題があります。
堆肥を使う際のポイントは、堆肥の成分をきちんと計算して、どういう風に効くのかをきちんと把握する。そして化学肥料とうまく組み合わせて、化学肥料もうまく使うということです。
また、現代農業では色々と新しい言葉を作るのですが、そのひとつに「土ごと発酵」という言葉があります。
完熟堆肥はたしかに難しい。それだったら中熟、半生みたいな物を土の深いところに突っ込まないで、表層だけで発酵させる。そうすれば腐敗的な現象は起きない。このやり方を「土ごと発酵」と呼んでいます。このように農家の間でも堆肥の使い方をきちんと考え直して、色々な工夫をしようという動きが始まっています。
『現代農業』10月号51ページに久保田さんという若手の方の記事があります。
この方はJAの大型資材配送センターに行った時に大量の化学肥料を見て、「もしこの肥料の山が水や土に優しく、毎年使い込むほど土のためにもよく、作物もよく育ち、10年後の子どもたちのためにもいいような資材だったら理想的なのになー」ということで村の家畜ふんなどをうまく使えないかと思ったということです。これは化学肥料が環境に悪く、家畜のふん尿が環境にいいということではありません。ただ、今の若い農家の人たちは農業が環境を悪くするような農業はしたくない。環境とかそういうことを考えながら農業をしていきたいということだと思います。
この方は、仲間とともに群馬県の畜産試験場が開発した「堆肥施用量計算ソフト」を使って、堆肥の成分をきちんと計算して、自分たちの堆肥栽培を始めました。
このあと54ページには、この方たちが自分たちで考えた、牛糞、鶏糞、豚糞の成分とそれぞれがどのように効くのかというイメージ図が載っています。このようなイメージを持って、堆肥と化学肥料を組み合わせたやり方をしていく。今そんな人たちが出てきています。
98ページからは「ドブ臭かった畑が、生ゴミ土ごと発酵で劇変」という記事が載っています。これは食品残渣を使った一例です。
この方も色々と有機物を使ってきたのですが、いろいろなものが腐敗してしまい、とてもドブ臭く離農を考えるほどひどい畑だったということです。それをどう処理するかということになるのですが、ここではそれでも生ゴミを使いたいということで、大手ショッピングモールのイオンからでる食品残渣を使っています。
これも発想は同じで、食品残渣の成分を分析して、足りないものを化学肥料で補っています。そして食品残渣を粉砕したものと化学肥料を混ぜ合わせたものを、土の表層にまいて、時間をおいて土の中で発酵させてやっていくと。そうすると土壌のドブ臭さが解消されて非常によくなったということです。これは食品残渣と肥料をうまく組み合わせて、かつ施用法を工夫してやったという話です。
138ページからは茨城の「ハナワ種苗(株)」さんの取り組みを紹介させていただいております。「ハナワ種苗(株)」さんはお客さんからの依頼を受けて、土壌診断をする。その結果を基に必要な肥料のリストをお客さんに渡すということをされております。
「ハナワ種苗(株)」さんの診断のやり方はまずpHをみる。適正なpHを判断した上でECを診断して、最後に塩基バランスを整える。もちろん圃場によって違いはあるけれど、この3つにちゃんと注意して施肥設計をするだけで大分変わるということです。
また、一番最後に「ハナワ種苗(株)」さんが作られた表がございます。このように自分が扱っている肥料の効果をきちんと位置づけて、それを元に農家の土壌の状態と組み合わせて施肥設計を行なう。こういうことはかなり大変で農協さんでもなかなかできないのではないかと思います。
今、大規模合併などで、新規の農家さんは頼る人、相談できる人がいないという状況にあります。農協の営農指導員さんもなかなか農家と話をする機会がないということで、地域密着型の指導ができない状態です。また、新しい人たちを支えるための技術指導ができる人がいないということがあります。そういう状態だから、地域の肥料屋さんの技術指導とかコンサルタントが非常に重要になってきます。
農水は農水で、地域コーディネーターという制度を立ち上げようとしていますが、そういう地域をつなぐ人が足りない。しかし技術的な裏付けがないと、地域は動かないので、皆さんと一緒にそういうことをやっていきたいですね。